実践編
大人のための絶対音感:目標
「大人のための絶対音感」ということで“目標”を設定することにしましょう。まずは最低限の目標ということで、こういう題目をたてました。
『“ド”の音を、他の音との比較なしに出せること』
これはつまり「ドー」と声に出して、“ド”の音を歌えるということ。まず“ド”の音さえ出すことができれば、これを基準に“ドレミ‥”と追っかけて、他の音も出すことができます。
カンタン?、いやいや実は結構大変なことです。が“絶対音感”をつけようということであれば、まぁ、最低限の目標といえるでしょう。
まず“何”から始めよう?
“ド”の音を、他の音との比較なしに出せるということは、“ド”の音を正しく“記憶している”ということです。ここで言う“ドの音”とは“ド”と呼ばれる音の高さ(=音高)のことですから、音色や音長については一切問われません。
とはいっても“ド”の音高だけを取り出して“記憶”するのは非常に難しいです。例えば今、この場でピアノの“ド”の音を聴かされて「これが“ド”ですよ」と言われたとします。あなたは一所懸命“ド”の音程を覚えていようとしました。しかし、24時間後に「では“ド”を歌ってください」と言われ、ちゃんと同じ音程を出すのは‥たぶん難しいでしょう。
では“ド”を歌ってください
???
絶対音感の幼児教育の場合(いろいろ方法はあるようですが)、“ド、ミ、ソ”と“ド、ファ、ラ”の2種類の和音の区別から始めるそうです。たぶん単音で聴くよりも、響きの違いがあるので、単音でやるよりもはるかに“聴き分け”が容易なんでしょう。それから徐々に和音の数を増やしていき、平行して単音にはいっていくようです。
僕の場合は、まず、例の曲(実はいまだにタイトルがありません)を歌うときの精度をあげる努力をしてみました。
改めて“ド”の音高を“記憶”せよ!と言われてもピンときません。それよりは、既に“覚えている事”を確実にするほうが良さそう、つまり「新しいことを始めるよりも、きっと近道だろう」という考えです。ということで、いつでもどこでも曲を聞いて確認できるよう、携帯電話の着メロにして登録したり、わざと忘れた頃に頭の中でメロディを思い出してみたり。
しかし、先生が居るときであれば、ちょっと歌ってみて「正しい?」と聞くことができるのですが、一人のときは正しいのかどうかも判断しづらいのが実状でした。そもそも判断できるようなら苦労はしません。
それからもう一つ問題がありました。例の曲が歌えたとしても、そこから推理をして、音をひねりださないと“ド”の音にたどり着くことができない!。実は例の曲、5小節進まないとメロディの中に“ド”が出てこないのです!。
例の曲から“ド”を見つける?!
確認のため、例の曲の冒頭を音名で書いてみましょう。
レ シ ♭ミ~ ラ #ファ ♭シ~
そもそも、僕がこの曲が気に入った理由は、ここに書いた“変態的な旋律”によるものだった訳ですから、いまさら作者に対して文句を言うつもりはありません。とはいうものの、目標である“ド”の音がないばかりか、はじめの6つの音のうちの3つに#シャープや♭フラットが付いているとなると、事態はかなり深刻です。
はて、どうやってこの中から“ド”の音を推理するか?。
最初が“レ”、次が“シ”だから、次に半音あがれば“ド”になるわよ
‥‥
カンタンでしょ?
‥‥
レ~シ~ド~
その理屈はよく判ります。“レ~シ~ド~”というフレーズを、“例の曲もどき”として覚えてしまえば良いということも理解できます。でも、しかし、だからといって、このお題を“カンタン”といってしまって良いものかどうか。「うぅ~」とうなってしまうのは僕だけではないはずです。
それでも、まぁ、たしかに先生のおっしゃる通り。このプロセスを経さえすれば、なんとか“ド”の音にたどり着くことができます(高い“ド”ですが‥)。とりあえず、これはこれとして有効な手段。使わせてもらうことにしました。
“絶対音感養成楽曲”を探せ!
曲がりなりにも“ド”にたどり着く方法が、やっと1つ見つかりました。ただ、この方法が最善か?というと大きな疑問が残ります。もっと単純な方法はないものか?、シンプルで、簡潔で、判りやすい方法はないものなのでしょうか?
そうだ!“ド”で始まる曲をイメージできるようにすればいいんだ!
我ながらグッドアイデア!(っていうか、はじめっからそうしとけよ!)ということで、何の曲にすればよいのか?検討することになりました。
曲選びの第1基準は“よく知っていること”。それから第2に“移調されないこと”→例えばカラオケに行くと、自分が歌い易いようにキーを上げたり下げたりしますね。キーを変えるということは、要するにオリジナルの曲とは違う“調”になってしまった!ということです。これでは始まりの部分を思い出そうとしても、きまった音高から始めることができません。歌謡曲や童謡、スタンダード・ミュージックなどは、いろいろな形(例えばオルゴール調、お正月調、行進曲調etc…)で耳に入ってきます。そのときに必ずしも“調”が同じとは言いきれないでしょう。
もちろん、オリジナルのCDを聞き込んで、聴き倒して、いつでも頭の中に“原曲”がそのままイメージできる!というものがあれば“絶対音感養成楽曲”として評価するに値します。
クラシックの曲は楽譜通りに演奏されるのが普通です。多少アレンジが加えられたとしても“調を変える(=移調)”ことはまずないでしょう。まぁ、jazzアレンジとかロックヴァージョンは“?”ですけどね。
映画音楽なんかもいけるかもしれませんね。こちらはアレンジものが多そうなので、“移調”に気を付けないといけませんが、好きな映画の曲であれば、頭でイメージするのも楽そうです。
まずは“クラシック”から‥
と、いうことで、まずは“クラシックの曲”から選ぶことにしました。
ド ソ ド ミ ♭ミ~
最初にあがった曲は、映画「2001年 宇宙の旅」でおなじみの「ツァラトストラはかく語りき」。いい感じです。シンプルです。判りやすいです。とりあえず有力候補としてエントリーです。
ド~ ソドレミソドミレファドレファラシファ‥
次にエントリーされたのは、ドビュッシーの曲。ピアノ組曲「子供の領分」より「グラドゥス・アド・パルナッスム博士」という名前の曲です。
あまりなじみのない曲かもしれませんが、実はこの曲、僕が大人になってからピアノで挑戦し、なんとか弾けるようになった曲でして、個人的にはとってもよく知っている曲なんです。タイトルが長すぎて覚えられず「なんとかかんとか博士」ということでやっています。これも“ド”で始まるので採用です。
ほかにもいろいろ候補の曲はありました。が、クラシックの曲はあまりよく知らないし、知っている曲が“ド”で始まっているかどうかというと、そうそううまくはいきません。先生からも“ド”で始まる曲を、いろいろ紹介してはもらうのですが、よく知らない曲だったり、気に入らなかったりで、うまくいきそうにありません。
“絶対音感養成楽曲”として成り立つためには、案外、曲に対して自分が持っている印象というか、ちょっと気持ちわるい言い方をすれば、その曲に対しての“愛情”がないと、駄目なのでしょう。つきあっていけないように思います。
頭に響いた“意外”なあの曲!
“絶対音感養成楽曲”を探して、さまざまな角度からの検討が重ねられていきました。
しかし「例の曲(+もどき)」、「2001年」、「なんとかかんとか博士」以外の候補がなかなか出てきません。
わがままを言っているわけではないと思うのですが、この3曲に匹敵するような曲が思いつかないのです。なんでもいい。もっと他に良い曲はないものか‥。
そんなときに、先生から思わぬ提案がでてきました。
“スーパーマリオ”知ってる?
え? もちろん!
どうやら先生も初代ファミコンの世代らしい。
たしか“マリオ”の曲は、C(=ハ長調のこと)だったと‥
そんな事を言うか言わぬかのうちに、僕の頭のなかでは“BGM”はもちろん、右から左へ流れていくステージの中を、腕を突き上げながら進んでいくマリオの映像、収まりの悪い小さくて薄っぺらなコントローラーの感触までが思い起こされていました。
チャチャッ チャッ チャチャッ チャッ!!
本当は、ここで押入からファミコン引っぱり出して“オリジナル”の確認をしたかったところなんですが、とりあえず、僕の頭で響いている“BGM”を声に出して歌ってみました。
するとどうでしょう!先生がビックリしてこっちを見ているじゃありませんか!!
ミミッ ミッ ドミッ ソッ!!
おまけに“地下”に入ったときの“BGM”は、 “絶対音感養成楽曲”として完璧に機能することが、その場で判明してしまいました。
ドドララ♭シ♭シ ドドララ♭シ♭シ
ファファレレ♭ミ♭ミ ファファレレ♭ミ♭ミ
この曲の“適正”を挙げると‥
- “ド”で始まる曲であり
- すでに現時点で、とてもよく知っていて
- “移調”されない(というかゲーム以外では、まず聴くことがない)
僕にとって最高の “絶対音感養成楽曲”を発見することができたという、確かな感触を覚えました。
ほかにも、意外な曲が“絶対音感養成楽曲”になり得ると思います。“マリオ”のように、好きでやりこんだテレビゲームのBGMをはじめ、CMソングや番組タイトルなど、テレビで毎日耳にする曲なんかもいいかもしれません。最近は駅の発車ベルが、短いジングルになっていますね。ああいうのも使えるかもしれません。
いつでもどこでも“ドドララ♭シ♭シ”
「どこで耳にしたのか?朝からずっと×××の曲がまわってる」という経験をしたことはありませんか?。テレビで流れていたのか、街中で聴いたのか、それとも記憶を呼び起こされたのか?!。ある曲(しかもサビの部分だけだったりする)が頭の中で延々繰り返されて、止めようにも止められない無限ループ。
そもそも“スーパーマリオ(地下)”は、ゲームのBGMで、しかも短い旋律で繰り返される、まさに無限ループ系の曲です。おかげで“例の曲”に代わって“絶対音感養成楽曲”トップの座を勝ち取り、ときに意識的に、ときに無意識のうちに、頭の中でぐるぐる、いつでもどこでもぐるぐる再生しっぱなし状態になりました。
先生からの出題も「例の曲‥」から「“ド”を出してみて」というものに替わり、“正解率”も高くなりはじめました。
“ド”を出してみて
このころ、“ド”の音を出すときに、頭の中ではこんなことが行われていました。
- “スーパーマリオ(地下)”を思い浮かべる
- 最初の音(=ド)だけを、伸ばす
- 伸ばした音を基に“ドレミ”の音階を作る
- 確認のため、“例の曲”(レ~シ~ミ♭~)を思い浮かべる
- さらに確認で“なんとかかんとか博士”も思い浮かべる
- “ド”の音を声に出してみる
もちろん1~5は、頭の中でイメージするプロセス。はじめのうちは、かるく鼻歌状態で「ふぅ~ふふぅ~」と声に出していたこともありましたが、回を重ねる度に、時間をかけず、しかもハッキリと音や旋律を思い起こすことができるようになりました。
最初の目標:『“ド”の音を、他の音との比較なしに出せる』に近づいていく実感が湧いてきました。
絶対音感養成楽曲:候補曲の紹介
ツァラトストラはかく語りき リヒャルト・シュトラウス
スタンリー・キューブリックの映画『2001年 宇宙の旅』で使われて、知名度をグンとあげた曲ですが、もともとはニーチェの作品を題材にして作られたとか。
スーパーマリオブラザーズ
ゲーム音楽は、ほかにもいろいろ候補曲がありそうなジャンルだと思います。ハマるゲームって何十時間もやっちゃうわけですから、ね。
結婚行進曲 メンデルスゾーン
結婚式といえばこの曲。というくらい定番の曲です。きっと聞いたことのない人はいないでしょう。先生が、“ド”から始まる曲ということで、真っ先に思いついた曲でした。
ロッキーのテーマ
シルベスタ・スタローンの出世作『ロッキー』のテーマです。
公開されたのは、もう20年以上前になると思いますが、いまだに時々テレビで流れるのを耳にします。
他にもいろいろ‥
探せばまだまだ、沢山あると思います。クラシックや映画音楽、ゲーム、テレビ番組‥
みなさんも自分に合った“絶対音感養成楽曲”を探してみてください。